CNSインタビュー 大野典子さん

公益財団法人 日本生命済生会付属日生病院
感染看護専門看護師 大野典子

 

Q.大学院に入学した動機は何ですか

大学院へはなかなか行こうとは思わなかったですね。まさか2年間も仕事を離れるということは頭になかったですし、認定看護師ができたので、そういう道もあったので。キャリアとか、看板はどうでもいいやと思っていました。とりあえず今、自分がやっていることには満足していたんですね。あまり進学をしようとかはなかったですね。

しかし、感染管理をずっとやっていく中で、感染管理は集団の感染を予防することにやっぱり主がいきますから、個人の患者さんを忘れがちになります。ある時、私は看護師だってハッと気づきました。看護したいって思ったんです。看護がしたいと一番に感じたのが感染対策上、感染症の患者さんに個室に入っていただかないといけない時があり、その説明をする時に何か申し訳ないと思っている自分に気づきました。患者さんに対して、お部屋から出てはダメですよということを説明しないといけないのが何か非常に辛くなってきて。看護師なのに患者さんが本当に望んでいることができているのだろうかと、あくまでもそれは組織の立場上とか、他の患者さんのためにはなっても、その患者さんに何のメリットがあるのだろうとフッと思ったんです。

もう1つがどんどん感染対策というものが進んでくる中で、いろんな病院でInfection Control Team(以下 ICT)などができて、院内感染対策をもっと充実しないといけないという社会的な背景もあって、それは別に看護職じゃなくてもできるのではないかという思いもありました。例えば、サーベイランスや感染率を出すこと、標準予防策の一つである手洗いをすることは決して看護職だけではなく、医師もそうですし、理学療法士もそうですし、患者さんに関わる人たちみんながやらないといけないことですし、実際ICTのメンバーを見ると看護職だけではなく、看護職はあくまでもその中の1人で、メンバーにいろんな方がいる中で、感染管理は別に看護職でなくてもできるのではないかという思いもありました。そういう時に大阪府立大学大学院で感染看護学コースができたという話を頂きました。それで、別に感染管理を否定するわけではないですが、本当に看護師としてICTを充実させていくためには、そういうモヤモヤ感などがあって進みました。

もう1つ大きな理由がちょうどその頃、自分自身で研究をしたり、スタッフの研究指導を行っていましたが、やっぱり独学で勉強した研究方法には限界があってですね、その感染対策上のエビデンスというガイドラインを読んだりするにもやっぱり研究そのものが読めないと、それを施設に取り入れていいものかどうなのかもわからなくって、論文自体の評価をするにも若干の疑問、不安がありました。それでやっぱり研究方法をきちんと基礎から学びたいというのが、その頃の一番大きな理由です。だからCNSというものには全く興味というか、CNSを目指していたわけではなく、自分自身のそういうモヤモヤと研究法を基礎から学びたいという思いで、進学をしました。

 

Q.仕事に活かされている大学院の学びは

感染管理に関して、今はもう社会の追い風で、感染対策をきちんとしないといけないというふうにはなってきていますから、みんな一生懸命努力してくれます。しかし、なかには、本当にそれが必要なのかというふうに言ってこられる人がいるのです。医師に多いですよ。以前はね、医師は非協力的だと思っていたのですが、多分それは違うんですよね。彼らはきっと原因と結果を見極めることを常にしているので、その対策をやって本当に良好な結果がもたらされるのかというところに疑問があるのだと思います。例えば、患者さんに何かをした後には、手指消毒をして下さいと、手袋をしていても外したら手指消毒をして下さいと言った時に、医師からじゃあ聞くけど手袋を外したあとに手指消毒しなかったからといって感染症が起こったという報告事例はあるのですか、と聞かれました。うん、グギッってきてですね、そういう報告を私は見たことがないですが、調べてみますということで。事例報告などは私たちの領域ではなくて、疫学的な調査で、例えば100人の患者さんに対してこういう処置を行った時の結果しか出せないのですが、それを医師に伝えたら、事例報告は無いんやろとか言いながらも、私たちがやって欲しいことの根拠を持って行くと、渋々ではありますが、認めてくれるようになりました。看護職はCNSの大野さんが言うことには間違いないと割とスッと聞いてくれます。組織を動かすのはやっぱりそういうようなエビデンス、根拠を持っていかないとなかなかね、この不況の折に感染対策はすごくお金がかかりますから、そういう時にもやっぱりデーターを持っていって、根拠を示したものを見付けて伝えられるというのはすごく大切で、ただこれがいいって言われていますからこれにしましょうでは、組織はもう動いてくれませんから。

 

Q.今一番伝えたいことや今後の目標は

英語を勉強しておいた方がいいです。少なくとも自分の専門領域の英語が、こんな感じかなと理解できた方がいいと思います。私たちの領域は、まだまだ国内での論文数が少ないです。特に、海外の感染率とか感染対策というものに関しては英語を読まないといけない時があるので。

1人の患者さんを看ていたら全体の感染対策ができるのかなと、最近思うようになってきました。外からではなく、1人の患者さんの安全とかを見ていると、その患者さんにきちんと指導ができていれば、個が集まれば集団になるはずですから、何かそんな気がします。そこを今は目指していますね。1人の患者さんにきちんと自分自身を守るためにも、安全予防というものをお伝えできたら、それは組織の中の感染管理になっていくのかなと思います。私たちは患者さんを守らなければいけないですが、職員も守らないといけない。職員自身も患者さんに対しての感染対策と自分自身の感染予防というのは多分かぶります。やらないといけないではなく、自分自身の安全を守るためにやることが患者さんにつながっていく、そこを伝えたいとすごく思いますね。

そして、感染管理というのは、本当は基礎だと思います。大阪府立大学も感染看護学という分野を立ちあげていますけれども、本当は基礎で、きちんとその部分を医療者全員ができている世の中がいいなと思います。癌でも感染管理は必要ですし、慢性疾患の方でも感染管理は関わってくるので。本当は柱じゃないかと思いますし、そうなるといいですね。

 

Q.CNSを目指す人へのアドバイスを

私たちはまだ全国で30人しかいません。やっぱりもっと一緒に活動していきましょうということを言いたいです。最初に、認定看護師や専門看護師にはとらわれていなかったということを言いましたけど、やっぱり取ると違いますね。CNSを取ると違うと感じたのは、病院の中で、感染対策にはお金がかかるので、そのエビデンスを伝えないと動いてくれませんと先程言いましたが、ひょっとしたら以前の私がエビデンスを伝えても動いてくれなかったかもしれません。エビデンスをきちんと提示できるか、自分でもエビデンスを持って動けるかということになるのかもしれませんけど。

具体的なエピソードとしては、大学院から病院に戻ってすぐにインフルエンザの騒動がありました。大阪でしたし近隣の人たちからもいろいろと言われた時に、やっぱりみんなから頼りにされました。いざ急を要する時は、ゆっくり考えている時間がないじゃないですか。でもその時に周囲から「大野さんどうしたらいい?」というのは、やっぱり2年間勉強してきたおかげだと思います。でも、自分の中で不安もありました。本当にこれでいいのだろうかというのはありましたけど、でもきちんと2年間で学んだエビデンスを、そこだけは外してなければいいのだという思いですね。その時に感じたのが、大学院の修士を出て来たからということで、一言が割とスッと、何て言うのでしょう、周りからの目や、信頼度と信用度が違っていることでした。本当に今までできてなかったことができるようになったりするので、看板がなんだというふうに思っている人がきっといるかもしれませんけど、やっぱり違うなとすごく思うので、大変ですけれども、仲間も増えるし、ぜひどうぞいらっしゃいと思います。