糖尿病の自己開示における意思決定後の対処について(患者様用)

 糖尿病についての自己開示の意思決定に際して、そのメリットとデメリットを知り、身体的・心理的・社会的な影響も考え、自分の好み、希望、個人の状況などに合った選択をした後で、その選択によって、自分がしなければならないことの覚悟やリスク管理、対処が必要になります。

 


糖尿病について自己開示しないことを選択した場合

 

糖尿病の療養のための自己管理行動について考えておきましょう。

  • 良好な血糖コントロール維持のために宴会や会合などの際の食事療法はどうするか?など
  • インスリン注射や内服薬についてどうするか?いつ、どこで注射するか?など
  • 受診時には職場などにどう説明するか?など
  • 糖尿病療養生活において必要な注意もしてもらえません。自分自身で糖尿病管理をしていくという強い意思が必要です。
  • 糖尿病で自己管理が必要なことを忘れないでいるために、自分で努力しましょう。インターネットなどで、糖尿病の自己学習を積極的にするなど、自分が、糖尿病であることを思い出す機会をつくりましょう。

 

低血糖などに備えておきましょう。

  • 低血糖発作や意識がもうろうとしたり、意識障害が起きた時、どう対処するか?
    低血糖発作を繰り返す、血糖コントロールが難しい状況の場合は、周囲の人の重要な誰かに、糖尿病について自己開示し、対処してもらえるような環境を整えておくことをおすすめいたします。

 

周囲の人のサポート、孤独、ストレスについて考えましょう。

  • サポートが必要ないと考えていても、本当にそうなのか、もう一度、自分に問いましょう。
  • 心理的サポートも得られません、他の人に理解してもらえません。孤独です。何もかも、一人で糖尿病と向き合わなければなりません。
  • 糖尿病についての悩みや迷いについての相談ができません。自分だけで決めなければいけません。自分だけで決定することで、適切な判断を見逃してしまうリスクがあります。医療者だけが相談相手となります。リスク管理のためには、必要時には積極的に医療者に相談しましょう。
  • 心身共に負担でストレスフルです。自分に合ったストレス・マネージメントを考えましょう。
  • 同じ病気の人が集まる患者会やセルフヘルプグループへの参加についても考えてみましょう。

 

他の人と親密になったり、コミュニケーションがしづらくなったりします。

  • 自分の中で本当に大事と思う人には糖尿病について自己開示することをおすすめします。開示するタイミング、開示する内容の深さなどについては、よく考えて。

 

話していない相手に対する後ろめたさ、隠すことやうそをつくことの罪悪感、否定的感情(怒り、悲しみなど)、居心地の悪さに対処しましょう。

 

スティグマ・マネージメントについて *スティグマ:恥辱、汚名、負の印、烙印(らくいん)

 糖尿病は本当に、人に隠すべきことなのでしょうか?恥ずかしいことなのでしょうか?弱みなのでしょうか? 自分自身の心に問いかけてください。自分だけでそう考えていませんか?自分の中で生じたスティグマと向き合ってみましょう。

 

糖尿病を持っているということや多くの人と違う状態でいることは、スティグマ化されやすく、Goffman(1963)によると、糖尿病などの不可視性の潜在型スティグマの場合、そのことを人に告げるかどうかという問題が生じると言われています。自分の中の内的スティグマに対処することは、開示すべきか、そうすることでさらに深いスティグマに患わされることになるのか、隠す努力をするのか、普通の人のようにふるまうのか、などの意思決定を含む様々な方略を内包しているといえます。

 

災害時には

 災害時には様々なストレスがかかります。ストレスが原因で高血糖になったり、食事がとれずに低血糖になったり、血糖コントロールも不安定になりやすく、心身ともに影響を及ぼします。一人で悩みや不安を抱えないのが重要ですが、そのためには、自己開示することが必要になります。災害が起きたら、避難所では自分が糖尿病で、治療が必要であることを、できれば開示しましょう。開示する相手は、知人、周囲の人、リーダー的立場の人、医療スタッフなどです。周囲の理解があればインスリン注射時のストレスも軽減しますし、災害時で食事量が足りない場合には、低血糖を起こさないように、長時間の労働・活動は避ける必要がありますが、避難所での共同作業(労働)などの調節についても相談しやすくなります。

 一人で悩まず、周りに相談できる人を見つけましょう。孤立は不安を強め、不安が強まると精神的に追い詰められ、さらに孤立した気分になります。避難所や身近な場所にいる患者間で情報ネットワークを作ることも心の支えになります。ただし、患者間での情報ネットワークだけに頼ると、情報が正しく伝わらずに不安や誤解を招くことがあるので、患者間だけでなく、周囲の人や医療スタッフとも交流をはかり、周りに相談できる人がいる環境を作るようにしましょう。色々なサポートを得るためには糖尿病であることの自己開示が必要になります。

 糖尿病について自己開示する際に、誤解を受けることが嫌であれば、糖尿病について次のことを説明することで、ある種の誤解を避けることに役立ちます。

  • 糖尿病は人に感染することはありません。
  • 毎日治療を続けることが必要です。
  • 血糖値が高くなりすぎたり、低くなると、意識を失ったり、命に危険があります。これを避けるためには血糖値をコントロールする必要があります。
  • インスリン注射や治療薬や食事量の影響で一時的に低血糖になり、もうろうとなったり、意識障害を起こすことがあります。
  • 意識がない状態になっていたら、すぐに医療スタッフに連絡してください。

 


糖尿病について自己開示することを選択した場合

 

人に同情されたり、気を遣われたり、特別扱いされたりしたとき

  • 自分の考え方を変えて対処することも可能ですし、相手に理解してもらえる努力についても考えることが大事です。

 

社会的差別・糖尿病に対する偏見に対して

  • 自分だけで対処するのが難しい場合は、同病者のネットワークで、解決するための手立てがあるかもしれません。
  • 糖尿病を開示することで、社会の偏見をなくすことにつながるかもしれません。