糖尿病の自己開示における意思決定支援ツール・ガイドとは

糖尿病の自己管理(セルフマネジメント)について

 糖尿病患者様が自分の病気について自己管理(セルフマネジメント)するためには、大きく分けて、3つの課題があると言われています(Lorig. K.他,20011))。1つは自分の病気の面倒をみること、食事や薬、運動などについての治療や療養行動の正しい知識を得て、理解し、実行し、継続していくこと、2つめは、仕事や家事、人とつきあうなど、普通の生活を送ること、3つめは、病気がもたらした不安、怒り、無力感、周囲の人との関係性の変化に対する気持ちと向き合うなど、自分の気持ち(感情など)を管理することです。上手に自己管理を継続するためには、病気に対処するのに必要なスキル(技術)、自分の普段の生活を継続していくのに必要なスキル(技術)、感情に対処するのに必要なスキル(技術)が必要になり、多大な努力を要するということになります。

*文献:1)Lorig.K., Holman.H, Scobel.D. 他著,近藤房江訳:慢性疾患自己管理ガイダンス~患者のポジティブライフを援助する,日本看護協会出版会

 


自己開示の定義と機能について

 心理学領域において、自己開示(self-disclosure)という概念を用いて、心理学研究の対象にしたのはJourard(1971)です。彼は自己開示を「他者が知覚できるように自分自身をあらわにする行為」として定義しました。自己開示の定義や機能についての知見は実にさまざまですが、定義の多くは、「自分自身についての情報を特定の他者にありのままに伝える」という点においてほぼ共通します。

 自己開示の主な肯定的機能には、①自己表出や情動の解放(カタルシス的効果)、不安や孤独感の低減、②自己の意見やアイデアの明確化(自己の客対視化)、③社会的確証(自己概念の社会的妥当性やフィードバックの獲得)、④親密な対人関係の促進・維持・状況のコントロールなどがあるといわれています(Derlega & Grzelak,1979;榎本,1997;安藤,1989 ;Derlega.V.,1999)。

 一方、自己開示には、①他者からの拒絶や攻撃、親密関係の低下(被開示者の、開示者に対する評価や態度が非好意的な方向に変化することで生じる対人的不利益)、②社会的な不利益(解雇、昇進妨害、白眼視など)、③第三者に漏洩したことで、第三者や大勢の人からうける手ひどい仕打ちや裏切りなどの不利益(プライバシーの漏洩)などの危険性が伴い、自己開示を抑制する要因ともなっているといわれています(Hatfield,1984 ;榎本,1997;深田,1998)。

*文献:「糖尿病についての自己開示に関する研究・参考文献など」参照

 

☞ 自己開示とカミングアウトについて

自己開示とは、相手には知られていない、隠されている自分のことについての情報を相手に表明することです。自己開示の中で、特に自らの立場を表明することをカミングアウトといいます」

*引用:
「人権学習シリーズ ちがいのとびら 自己開示とカミングアウト」 (更新日:平成28年2月9日)
大阪府のホームページ (大阪府 府民文化部 人権局人権企画課 教育・啓発グループ)
http://www.pref.osaka.lg.jp/jinken/work/kyozai04_04_04.html (2019年2月4日)

 


糖尿病の自己開示における意思決定支援ツール・ガイドとは

 社会の中で、前述の3つの必要なスキル(技術)を駆使し、糖尿病の自己管理(セルフマネジメント)の3つの課題に対処していくこと、つまり、治療と療養行動、普段の自分の生活、そして、自分の感情に折り合いをつけてバランスよく生きていくためには、他の人との関わりの中で、病気についての自己開示の問題に向き合うことが必要になります。自己開示の決定は感情、価値観、内的スティグマなども含んだ内的因子だけでなく、ほとんどの領域により影響を受け、そして、影響を与えることができるものであると考えられます。

 (患者様にとって)よりよい意思決定とは、正しい情報と理解に基づき、エビデンス(根拠)があり、患者様の好みや価値観、状況に合っていて、メリットとデメリットを考慮したうえで選択したものであり、その選択によって自分がしなければならないことを覚悟して決定することと考えています。

 本WEBサイトの「糖尿病の自己開示における意思決定支援ツール・ガイド」は患者様ご自身と、その患者様を支援する医療者のための「ディシジョンエイド」の一つとして考案したものです。いまだ完成途中といえるものですが、皆様のご意見によって今後さらによりよいものに発展することを切に願っています。

 


糖尿病の自己開示における思決定支援ツール・ガイド(患者様用)の流れ(手順)について

1.糖尿病の自己開示における意思決定をする前に、まずは「自分の病気を知る」

 糖尿病、その治療や療養行動について正しい情報や知識を得て、理解することが大事です。自分の置かれている病気の現在の状況について、客観的に把握しておくことが必要です。生命の危機状況等についてもです。

2.糖尿病の自己開示における意思決定支援ツール・ガイドについて

  • 「自分の気持ちを知る」:意思決定に関して、今、何を悩み、迷っているのか、決めなくてはならないことを明らかにしていきます。
    開示する相手、開示する内容の深さ(自己開示をとおして共有される情報が非常に個人的なものであるかなど、その程度)、幅、期間、感情的内容についても検討し、明らかにしておきます。
  • 「自分の生活(変化や影響も含めて)を知る」:糖尿病の自己開示と糖尿病の自己管理の状況との関係と自分の生活を明らかにしていきます。
  • 「メリットとデメリットを知る」:一般的なことだけでなく、自分のおかれている状況ではどうなのか明らかにし、ベネフィット(利益)と対価を評価します。☞ シート
  • 「自分を知る」:自分の価値観、自分らしさ、自分の生き様などについて考え、確認します。
  • 「自分を知る」:自分の中の壁、障壁となるもの、内的スティグマについて、確認します。
  • 「自分を知る」:過去の体験を振り返り、その体験が現在の自分に及ぼしている影響を確認します。
  • 「自分を知る」:自分に必要なサポート、意思決定後のリスクについて考え、明らかにします。
  • 「自分を知る」:感情、不安、悩み、怒りなど自分の感情や心理的ストレスになっているものは何かを明らかにしていきます。また、過去の自分のストレス対処行動の傾向を振り返ります。
  • 「自分を知る」:疑問点はないか、他 自問します。
  • 「選択肢を考える」:選択肢が自分にとってベストであるかどうか、適切な戦略かどうか、比較検討する。自分の好み、希望、状況などに合った選択かどうか、行動に移せるかどうかなどについて考えます。迷ったら、最初に戻って考えましょう。
  • 「意思決定の問題を考える」:意思決定するにあたって、他に問題がある場合、その原因を考えます。
  • 「自分がどうしたいか知る」「その選択によって、自分がしなければならないことを覚悟する」
    ⇒「実行する」

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糖尿病の自己開示における意思決定支援ツール・ガイド(医療者様用)について

 流れ(手順)については、患者様用と大きな差異はありません。支援に際して、患者様のヘルスリテラシーに合わせて情報を提供していくことも大事です。患者様によって受け止め方が違うことを十分に認識し、支援者自身が自分の価値観や考え方を知り、傾向(考え方のくせ)を自覚した上で、あくまで中立的立場で支援することを心がける必要があります。患者様が何を大切にして決めたいかをたずね、「ツール・ガイド」に基づき、患者様の考えや思い、価値観、経験などを一つ一つ、丁寧に確認しながら、患者様が「自分で決める」支援をするだけでなく、「医療者も患者様と一緒に意思決定プロセスに参加する」ようにしていくことも必要と考えます。

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