糖尿病の自己開示における意思決定支援について(医療者様用)

 糖尿病の自己開示における意思決定に際して、そのメリットとデメリットを知り、身体的・心理的・社会的な影響も考え、好み、希望、個人の状況などに合った選択ができるよう支援をする必要があります。意思決定後、その選択肢によって、患者様はしなければならないことの覚悟やリスク管理、その選択肢に応じた対処が必要になります。意思決定をした後の体験等により、患者様の意思は揺らぐこともあるので、医療者は患者様の意思決定後も継続した支援をする必要があります。

 


患者様が糖尿病について自己開示しないことを選択した場合

 

糖尿病の療養のための自己管理行動について患者様と一緒に考えましょう。

  • 良好な血糖コントロール維持のために宴会や会合などの際の食事療法はどうするか?など
  • インスリン注射や内服薬についてどうするか?いつ、どこで注射するか?など
  • 受診時には職場などにどう説明するか?など
  • 糖尿病療養生活において必要なサポートが得られないため、患者様自身で糖尿病管理をしていくという強い意思が必要になります。医療者がサポート者として非常に重要になります。
  • 患者様が糖尿病で自己管理が必要なことを思い出す機会や場をつくりましょう。
  • 患者会やセルフヘルプグループの存在について情報を提供しましょう。

 

低血糖などに備えておけるよう、患者様に促しましょう。

  • 低血糖発作、意識障害が起きた時の対処方法を患者様に考えておくように話をし、確認しましょう。
    低血糖発作を繰り返す、血糖コントロールが難しい患者様、1型糖尿病患者様、高齢の患者様、一人暮らしの患者様には、周囲の人の重要な誰かに、糖尿病について自己開示し、対処してもらえるような環境を整えておくことをすすめましょう。

 

周囲の人のサポート、孤独、ストレスについて患者様と一緒に考えましょう。

  • サポートが必要ないと考えていても、本当にそうなのか、もう一度、患者様に問いましょう。
  • 心理的サポート、他の人にも理解してもらえず、孤独になります。患者様が孤立しないように、糖尿病と向き合えるように配慮が必要です。
  • 糖尿病についての悩みや迷いについて他の人に相談ができません。患者様一人だけで、様々なことを意思決定することで、適切な判断を見逃してしまうリスクがあります。医療者だけが相談相手となる可能性があります。リスク管理のために、必要時には積極的に医療者に相談するように声をかけておきましょう。また、同じ糖尿病患者様と話す機会や場をつくるような支援も。
  • 心身共に負担でストレスフルです。患者様に合ったストレス・マネージメントを一緒に考えましょう。
  • 患者会やセルフヘルプグループの存在について情報を提供しましょう。
    1型糖尿病患者様、高齢の患者様、一人暮らしの患者様には、周囲の人の重要な誰かに、糖尿病について自己開示し、サポートが得られるように、人間関係を築いておくことをすすめましょう。

患者様は他の人と親密になったり、コミュニケーションがしづらくなったりします。

  • 患者様の中で本当に大事と思う人には糖尿病について自己開示することをおすすめします。
    開示するタイミング、開示する内容の深さなどについては、開示する相手に応じて。

 

患者様は話していない相手に対する後ろめたさ、隠すことやうそをつくことの罪悪感、否定的感情(怒り、悲しみなど)、居心地の悪さを感じることがあります。患者様が自分の感情に対処できるように支援しましょう。

 

スティグマ・マネージメントについて *スティグマ:恥辱、汚名、負の印、烙印(らくいん)

 患者様は、糖尿病を、人に隠すべきこと、恥ずかしいこと、自分の弱み等と無意識に思っていることがあります。自己開示ができない場合、患者様の心の内的スティグマが関与していることがあります。患者様の中のスティグマと真摯に向き合えるように、糖尿病についての適切な情報提供や理解を促し、また、同じ糖尿病患者様と話す機会や場をつくるような支援も時に必要です。

 糖尿病を持っているということや多くの人と違う状態でいることは、スティグマ化されやすく、Goffman(1963)によると、糖尿病などの不可視性の潜在型スティグマの場合、そのことを人に告げるかどうかという問題が生じると言われています。自分の中の内的スティグマに対処することは、開示すべきか、そうすることでさらに深いスティグマに患わされることになるのか、隠す努力をするのか、普通の人のようにふるまうのか、などの意思決定を含む様々な方略を内包しているといえます。

 

災害時には

 災害時には様々なストレスがかかります。ストレスが原因で高血糖になったり、食事がとれずに低血糖になったり、血糖コントロールも不安定になりやすく、心身ともに影響を及ぼします。患者様が一人で悩みや不安を抱えないのが重要ですが、そのためには、患者様が自己開示することが必要になります。災害が起きたら、できれば、避難所では患者様が糖尿病で、治療が必要であることを自己開示できるように、普段の生活においても地域の人々との人間関係を密にできるようにしておくことを提案しておきましょう。患者様が病気について開示する相手は、知人、周囲の人、リーダー的立場の人、医療スタッフなどです。周囲の理解があれば患者様のインスリン注射時のストレスも軽減しますし、災害時で食事量が足りない場合には、低血糖を起こさないように、長時間の労働・活動は避ける必要がありますが、避難所での共同作業(労働)などの調節についても患者様が周囲の人に相談しやすくなります。

 患者様が一人で悩まず、周りに相談できる人を見つけられるように普段から気にかけておきましょう。孤立は不安を強め、不安が強まると精神的に追い詰められ、さらに孤立した気分になります。避難所や身近な場所にいる患者間で情報ネットワークを作ることも患者様の心の支えになります。ただし、患者間での情報ネットワークだけに頼ると、情報が正しく伝わらずに不安や誤解を招くことがあるので、患者間だけでなく、周囲の人や医療スタッフとも交流をはかり、周りに相談できる人がいる環境を作るように説明しておきましょう。色々なサポートを得るためには糖尿病であることの自己開示が必要になります。

 糖尿病について自己開示する際に、誤解を受けることが嫌であれば、糖尿病について次のことを説明することで、ある種の誤解を避けることに役立つと思われますので、患者様の教育時に話しておきましょう。

  • 糖尿病は人に感染することはありません。
  • 毎日治療を続けることが必要です。
  • 血糖値が高くなりすぎたり、低くなると、意識を失ったり、命に危険があります。これを避けるためには血糖値をコントロールする必要があります。
  • インスリン注射や治療薬や食事量の影響で一時的に低血糖になり、もうろうとなったり、意識障害を起こすことがあります。
  • 意識がない状態になっていたら、すぐに医療スタッフに連絡してください。

 災害時、医療スタッフとして活動する際には、病気について言えないという患者様がいるかもしれないということに十分に注意しておく必要があります。また、普段、病気について話していない患者様の立場も配慮することが必要になります。

 


患者様が糖尿病について自己開示することを選択した場合

 

人に同情されたり、気を遣われたり、特別扱いされたりして、患者様が不快な思いをしたり、社会的差別・糖尿病に対する偏見に遭遇したときには

  • そのようなことで、心理的負担、無力感、孤独、異質感などを感じ、患者様の糖尿病についての自己開示に関する意思決定に迷いが生じ、意思決定内容を変更することもありえます。患者様自分の考え方を変えて対処することも可能ですし、患者様と一緒に相手に理解してもらえる努力について考えることも必要かもしれません。また、自分だけで対処するのが難しい場合は、医療者や同病者のサポートが必要かもしれません。意思決定支援ツール・ガイドの最初にもどって、患者様自身で再度考えてもらいましょう。時には、医療者も一緒に考える場をつくることも必要になると思います。
  • タイミングを考えて、糖尿病を自己開示することで、糖尿病についての社会の偏見をなくすことにつながるかもしれないことを患者様に話すこともいいかもしれません。
  • 社会の人が糖尿病について、正しい知識で理解してもらい、生活がしやすくなるように、地域社会一般に対して、医療者は普及活動をすることを積極的にしていきましょう。